進歩する治療

数年前の山中伸弥教授によるips細胞作製の成功など、人類の夢と言っても過言ではない全く新しい治療法、再生医療が一層の現実味を帯びてきました。世界中で競って研究がすすめられていますが、それは歯科医療の分野も例外ではありません。再生医療の要となるのは、自己複製による増殖、あるいは別の細胞への分化の能力を持つ幹細胞です。幹細胞には骨髄幹細胞などの自然に存在するものと、人工的に作製されたものとがあります。ちなみにips細胞は、受精卵に頼ることなく、細胞を人工的に幹細胞の状態に戻したものであることが画期的なのです。さて、骨髄に幹細胞があるように、歯にも幹細胞が存在することが分かっています。歯科医療の分野では、その歯の幹細胞を使った動物実験などが進められており、ヒトへの応用研究も既に行われています。

直近の報道では、経済産業省が開いた再生医療に関する有識者研究会において、幹細胞の提供源の1つとして歯科治療で抜去された歯が示されています。歯の幹細胞は例えば骨髄幹細胞などより増殖の能力が高いとする調査結果もあります。また海外では、ヒトの幹細胞を供給するシステムが普及し始めており、有識者研究会においてその構築についても話し合われています。もちろん、ヒトの一部を商品化するのですから倫理的な課題はあります。しかし脳死移植の問題において、現実に臓器を求めて海外に渡る患者さんがいることもあり、対応せざるを得なかったことを考えると、結局はこのまま放置すると歯科治療など幹細胞提供の現場でも同じことが起きるように思います。倫理面も含めた専門家の方々の議論を、私たちも他人事とせずにしっかりと聞くことも、実は再生医療の今後に向けてとても大事なことなのかもしれません。